水素ガス吸入療法の QOL への効果 ―アンケート調査―
原著
水素ガス吸入療法のQOLへの効果 ―アンケート調査―
矢沢 麻子
WAARM Journal, 2024; 6: 46–52
Key words: 水素ガス吸入療法,QOL,アンケート調査
趣旨
水素吸引器が設置してある健康サロンやスポーツ施設などにアンケート用紙を置き,その利用者にアンケートを書いて頂いた.被験者数は 103 人で,年齢は 10 ~ 82 歳であった.今回の調査から水素ガス吸入療法は疲労感,睡眠障害,冷え性,二日酔いの改善および痛みやアレルギー性鼻炎の緩和が見られた.美容効果としては肌荒れ,シミ,くすみなどに対して見られた。水素ガス吸入療法は体内の活性酸素を減少させる事により QOL を高めるのに十分な効果があったと考えた.
はじめに
水素は水素原子(H)と水素分子(H2)を意味する.ここで述べる水素ガスは水素分子の意味であり,英語では molecular hydrogen や hydrogen gas と表記される.水素ガスは無臭・無色,可燃性であり活性酸素を減少させるが生体に対しての毒性はない 1).水素ガス吸入療法には,吸引法 2, 3)や飲用 4, 5),静脈注射法 6)(生理食塩水に溶かした水素ガスを用いる),水素風呂 7)が知られている.水素ガスを水に溶解させた飲料型の水素水が商品化されている.しかし,低分子である水素ガスは容器を透過して拡散され易い.その上,容器開封後水素ガスは直ちに空気中に拡散するのでコップに移してゆっくり飲んでいると水素ガス濃度は減少することとなる.その欠点を補うのが水素ガス吸入法や静脈注射法である.発生させた水素ガス単体あるいは酸素と混ぜて体内に吸収させるものである 8).我々動物は呼吸により発生したエネルギーを用いて生命活動を行っている.呼吸により取り込まれた酸素は細胞内の糖と結びついて炭酸ガスと水に分解する.その際エネルギーが発生する.この時に一部の酸素は水素を余分に取り込んで過酸化水素やヒドロキシラジカルなどの活性酸素となり酸化ストレスの原因となる.活性酸素は強い酸化作用を持ち,増えすぎると細胞や DNA にダメージを与えて老化や病気の原因になるとされている 9).この活性酸素を消去する抗酸化物質が水素ガスである 1, 2).そして,水素ガスは抗酸化作用と抗炎症作用により,老化を抑えて健康寿命を高めるとしている 10).急性酸化ストレスは過度な運動や炎症,虚血,再灌流障害,外科出血,臓器移植など色々な状態で起こる 11, 12).水素ガス吸入療法は脳,心臓などの多くの疾患で酸化ストレスが原因とされる病気に対して抗炎症,抗アポトーシス効果があるとされている 13-15).動物実験の報告であるが,水素ガス療法は脳や心臓の再灌流障害の軽減 2, 16),中枢神経細胞を活性化させて認知能力向上させるとしている 17).また,パーキンソン病 18)やアルツハイマー病 19)の治療効果が認められた.しかし,臨床例ではパーキンソン病患者 20 人が 4 週間水素水を飲用したが良い結果が得られなかった 20).脳や心臓以外でも水素ガス吸引療法は肥満により起こる糖尿病や脂肪肝の予防効果 21),肝硬変の軽減 4),肝臓機能の快復 22),リュウマチの活動を鈍らせる 23)あるいは熱傷における急性肺障害の軽減 24)など報告がある.これら上記した水素ガス療法の効果は入院患者や代謝性疾患に対する治療効果の可能性を示唆したものである.しかしながら,日々生活を営む中でヒトに対してどのような効果があることを述べているものはほとんど見当たらない.また,水素ガス吸引機器は医療機器だけではなく家庭用としても作られており,臨床以外にも幅広い効果が期待されている.そこで,水素ガス療法がヒトに対してどのような効果があるのかをスクリーニングする目的でアンケート調査を実施した.水素ガス吸入器が置いてあるスポーツ施設や美容サロン,接骨院を中心としてそこに通う方に被験者となって頂いた.その結果,水素ガスが QOL(生活の質)を高める効果あることが明確になったので報告する.