オーラルフレイルと地域医療の役割
総説
オーラルフレイルと地域医療の役割
笹本 祐馬、笹本 恭子、篠崎 愛、渋谷 麻希、佐藤 茂、河野 哲朗、岡田 裕之
WAARM Journal, 2020; 3: 12–22
Abstract
The early detection of oral frailty is necessary, namely the loss of oral function is a precursor or accelerator of general frailty. Oral frailty can be a risk factor for sarcopenia and malnutrition. The prevalence of oral frailty increases with advancing age, conferring a high risk such as periodontitis , teeth loss, decreased tongue pressure, the reduction of chewing ability and disrupted swallowing function. But tongue movement and swallowing function or malnutrition are reversible. Oral frailty care has not only dental professionals, but also offered with nutritional advice, geriatricians, rehabilitation person.
はじめに
フレイルfrailtyは老化により心身が衰えた状態であり, 1年で4.5kgの体重減少, 疲労感,握力低下, 遅い歩行および運動量の減少の5項目中3個が当てはまれればフレイルとされる. フレイルの状態で何もしなければ悪化し, 転倒, 入院, 老人養護施設入所となり, 死を待つだけの身体となることがある.
全身的なフレイルに対してオーラルフレイルoral frailtyは口から食べ物をこぼす, 物がうまく飲み込めない, 活舌が悪くなる等といった軽微な口腔機能の衰えであり, フレイルの前段階であるプレフレイルとされている. このプレフレイルを見逃した場合, 全身的な機能低下が進みフレイルとなる. そこで口腔機能低下であるオーラルフレイルの早期発見は重要であり, フレイルへの予防が出来ることとなる. 一般的にオーラルフレイルは舌圧の減少による嚥下機能低下, 小食となり栄養失調へと導くとされている. また、歯周病による咀嚼困難もフレイルへとの関連性も知られている.
歯の欠損, 歯痛あるいは咀嚼障害のような口腔健康の問題は、特に老人介護施設に入所している高齢者において栄養不良の主な要因であると指摘されている. 事実、入所している高齢者には口腔機能低下が多数見られる. 自分の歯で食事ができる高齢者(入れ歯, インプラント治療を受けた人を含む)は介護施設入所者よりもフレイルが低く, 高いQOL(生活の質)を示している. 高齢者社会において, 咀嚼および嚥下障害などの口腔機能低下を示すオーラルフレイルはQOLの低下と密接にむすびついている. この事は, オーラルフレイルを早期発見して, その個人に合った口腔管理が行なわれることでQOLを高めて健康寿命を延ばすことは高齢者社会の重要な課題の一つである. また, 歯の欠損は美的に及ぼす影響も高く, QOLの低下の原因ともなっている.